テレビ
楽天がTBSに触手を伸ばすという。せっかくそれなりの地位を市場に築いた楽天ではあったが、大きく満ちた月が欠け始めた瞬間と形容できよう。テレビ局のコンテンツも、スキルも、今まで築いてきたものを投げ打つほどの価値は、全くない。テレビの唯一の既得権益は、総務省の許認可制度によって守られている点のみである。報道ひとつとってみても、現在はインターネットやブログの方がはるかに視点が面白く、レベルが高度であり、コンテンツとして充実している。ハードやソフトに渡る放送スキルに関しても、高校や大学の放送部を凌駕する点は無く、アマチュアとプロの境界線は曖昧である。
思考の枠組みレベルでのミステイクである。かの経営者は既得権益を破壊する立場であることを公言していたが、今回は既得権益そのものを獲得しようと奇襲した。
教養人と若人にとり、テレビの存在はほとんど意識にありえない。大宅壮一により、黎明期において「一億総白痴化」とつけられたテレビの定義は、極めて妥当であった。テレビ自体は、ラジオからインターネットへとつながる過渡期に存在した「一億総白痴化」を造成した一方通行の原始的なメディアとして、その痕跡を、電波技術史にかろうじて留めるのみである。今回の行動は、人間知、哲学、歴史的思考などが欠けている証左と言えよう。
かの賢明な経営者ゆえ、新しい市場哲学への提示が期待される。今後の彼に注目したい。
喜び
人生最大の喜びとは何かで、その人の人柄が分かろう。当方の人生最大の喜びを語ってみる。それは夕方であった。当方の経営する学習塾に高校生がいつものように勉強をしにきた。高校生は試験直前なので、それなりの数学の問題を提出して、プレテストをしてもらっている最中である。当方は、国語の問題を作るためにその生徒から学校で使用されている教科書を借り、試験範囲を聞いて予想問題を作ろうとした。ぱらぱらとめくると、森鴎外『高瀬舟』があった。当方の高校の時にも勉強した教材である。懐かしさに、思わず読み始めてしまったら、鴎外の世界に完全に没入してしまった。物音ひとつしない静寂な教室、完璧な芸術家の魂で先導されゆく驚嘆する物語。高瀬舟の思想的解釈などごく浅薄な側面に過ぎない。純粋な知性の喜びそのものがある。最高の愉悦がある。あの、時間にすれば30分ほどの愉悦は、まさに人生最高の瞬間であった。天から舞い降りた至福の時間である。
鴎外の時代において小説家は、あまり評価されていなかったと推察される。しかし、鴎外は昼間の公務が終わったあと、あるいは閑暇に創作に没頭した。それは、世俗的名声や金銭などとは次元を異にする行動であり、まさに純粋な愉悦がその原動力であったと思われる。創作そのものの魔力にとりつかれた人であろう鴎外。時空を超えても人を強烈に感動させる魂の共時性を有するのが真の天才であろう。
ソフトバンク
「圧倒的一位になる目算がなくては、着手しない。戦いを始めない」との哲学で時代を先導していった孫正義オーナーの球団が負けた。ソフトバンクとして新生した今春は、やはり孫さんの着眼点は「圧倒的一位」であり「世界ナンバーワン」であるとの思いを深くした。また、最も優勝に近い球団であった。しかし、その優勝をつかむ直前、九分九厘確実に手中に収められると思った瞬間、女神はするりと孫正義オーナーの柔らかい両手から逃げていった。敗因は、王監督の釈明である「制度上のアドバンテージ」ではない。ソフトバンクの歯車が狂い始めたのである。これは事業面も含めての象徴である。一葉落ちて秋を知ると言う。時代は新しいインターネットタームに突入したのである。経営者孫正義さんは気付いておられるか。既得権益を破壊する立場であった者が、時代の変遷と共に自らが既得権益となっていることに気付くたおやかな精神性が必要である。柔軟な孫さんの今後に注目したい。


